最近、収益物件のご相談をいただく際、半数以上の方が同じ点に触れられます。民泊の年間180日という上限です。住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく限り年間180日が上限であり、2026年7月の観光庁による技術的助言以降、自治体が条例でさらに日数を制限することも可能となっております。地域によっては実際に営業できる日数が180日を大きく下回ります。
そこで注目されているのが、もうひとつの選択肢である旅館業許可です。取得すれば「住宅を時折貸す」のではなく正式な宿泊業となり、年間365日の営業が可能になります。ではハードルはどこにあるのか、実務上つまずきやすい点を整理いたします。
一、民泊の届出と旅館業の許可の違い
民泊は「届出」です。書類を整えて自治体へ届け出る形で、ハードルは比較的低い一方、180日の上限や各種の付帯条件がございます。旅館業は「許可」です。保健所が建物・設備・消防を審査し、通過して初めて許可が下ります。その代わり日数制限はございません。
一方は届出で上限あり、他方は許可で上限なし。許可付き物件が市場で注目される理由はここにございます。
年間営業可能日数:民泊の届出と旅館業の許可
※ 180日は住宅宿泊事業法上の上限であり、自治体の条例によりさらに厳しい制限(平日の営業不可など)が課される場合がございます。
二、第一のハードル:用途地域
最も厳格で、交渉の余地がない要件です。都市計画上の用途地域のうち、名称に「住居専用」が付く地域、および工業地域・工業専用地域では旅館業を営むことができません。
つまり第一種低層住居専用地域にどれほど良い建物があっても、旅館としての活用は法令上できません。この点は物件をご覧になる前に確認すべきことで、ご契約後に調べるものではございません。割安に見える物件がそもそも旅館業に使えない、というケースは少なくありません。
三、第二のハードル:構造設備基準(簡易宿所の面積)
小規模な宿泊施設で最も用いられるのが簡易宿所です。客室面積は、客室の延床面積の合計が33㎡以上であることが原則とされております。ただし実務上重要な例外があり、宿泊者数を10人未満とする場合は、1人当たり3.3㎡以上を確保すれば、合計33㎡未満でも許可を受けられます。
簡易宿所:宿泊者数と必要客室面積
※ 旅館業法施行令により、客室の延床面積の合計は原則33㎡以上、宿泊者数10人未満の場合は3.3㎡×人数とされております。最低基準であり、最終的には自治体の条例と保健所の現地判断によります。
面積のほかにも、適当な換気・採光・照明・防湿および排水の設備、適当な規模の入浴設備、適当な数の便所などが定められております。抽象的に見えますが、実際には保健所が基準に沿って現地を確認し、不適合箇所は改修が必要となります。
四、第三のハードル:消防法令適合通知書
見落とされやすいのがこの点です。旅館業許可の申請時には、消防署が発行する消防法令適合通知書の写しの添付を求められるのが一般的で、自動火災報知設備、誘導灯、消火器、防火管理体制などが確認されます。
事前相談から通知書の交付までは概ね1〜3ヶ月を見込む必要があり、その間に改修工事が必要となる場合もございます。時間・費用ともに小さくありませんので、「購入後に旅館へ転用する」ご計画の場合は、資金計画と空白期間に必ず織り込んでおかれることをお勧めいたします。
五、許可付きの建物を買えば、許可も引き継げるのか
毎週のようにいただくご質問ですが、答えは許可は営業者に対して与えられるものであり、建物に付随するものではない、ということでございます。したがって建物を購入しただけでは、原則として前所有者の旅館業許可が自動的に承継されるわけではございません。
ただし2023年12月13日施行の改正旅館業法により手続きが緩和されました。従前は法人の合併・分割は届出で承継できる一方、事業譲渡の場合は許可を取り直す必要がございました。改正後は事業譲渡についても、譲受人が都道府県知事等へ申請し承認を得ることで、新たな許可取得を行うことなく営業者の地位を承継できるようになっております。譲渡人が廃業届を提出する必要もなくなりました。
ただしこれは事業譲渡、つまり旅館という事業ごとお引き継ぎになる場合の話であり、単に建物を購入する場合とは異なります。「旅館業許可取得済」という表示をご覧になった際は、許可の有無ではなく「どのような取引形態か」「承継が可能か」「不可の場合、再申請にどれほどの期間と費用を要するか」をご確認ください。これらは必ず行政書士および所在地の保健所へご確認いただき、売主のご説明のみで判断なさらないようお願いいたします。
六、「旧条例適用」に価値がある理由
旅館業については自治体ごとに条例が定められており、近年は厳格化の方向にございます。条例が強化される前に許可を取得した物件は、実務上「旧条例適用」と呼ばれます。同じ建物でも、現在あらためて申請すると新条例により許可が下りない、あるいは追加の改修費用が生じる可能性がございます。
既存の許可を有し、かつ旧条例の適用を受けている物件の価格に希少性が反映されるのはこのためです。売買の対象は建物だけでなく、現在では取得が難しくなった営業条件そのものでもあるといえます。
七、私からのご提案
短期宿泊による収益をお考えであれば、検討の順序を逆にされることをお勧めいたします。建物の見栄えより先に、用途地域上可能か、既存の許可の状態はどうか、承継が可能か。この三点のいずれかが不可であれば、その先の検討は意味をなさなくなってしまいます。
なお、許可の可否および取得後の条件は、最終的には物件所在地の自治体の条例と保健所の判断によります。現地確認前に保証できるものではございませんので、「必ず取得できます」といったご説明には慎重にご対応ください。
弊社では現在、旅館業営業許可を取得済みの一棟物件を、旧条例適用のものを含めて数件お取り扱いしております。実例をご覧になりたい方、あるいはご検討中の物件がこの道を進めるかご確認になりたい方は、LINEよりお気軽にご相談ください。用途地域と現況の許可状況について、まずお調べいたします(実際の取得可否および承継については行政書士・保健所にご確認ください。融資の可否・借入割合は個別の審査によります。税額は税理士にご確認ください)。
出典:厚生労働省「旅館業法」および旅館業法施行令の構造設備基準、厚生労働省による令和5年(2023年)12月13日施行の改正旅館業法(事業譲渡による承継手続)、観光庁2026年7月15日付の住宅宿泊事業に関する技術的助言。用途地域上の可否、条例の内容および審査基準は自治体により異なります。実際には所在地の保健所および公式の最新情報をご確認ください。
周周・日本の不動産