「日本に会社があるのですが、不動産は法人名義と個人名義、どちらで買うべきでしょうか」
経営・管理の在留資格をお持ちで、既に日本に法人がある方から毎月のようにいただくご質問です。ネット上の情報は「法人は必ず節税になる」か「個人の方が簡単」かの両極端になりがちですが、実際にはどちらにも優位な場面があります。鍵は保有期間・収益の種類・ご自身の所得階層の3つです。
まず売却時:保有期間で大きく変わります
個人・保有5年超(長期譲渡) 約20.315%(所得税15%+復興特別所得税+住民税5%)
個人・保有5年以内(短期譲渡) 約39.63%——ほぼ倍
法人 長短の区分なし。法人所得に合算され、実効税率は約29.74%
整理すると、長期保有してから売却する想定なら個人が有利(20.3% 対 29.7%)、数年内に売却する可能性があるなら法人が有利(29.7% 対 39.6%)ということになります。
次に毎年の賃料収入
個人の所得税は累進課税のため、賃料収入は給与や事業所得に上乗せされ、階層が上がるほど負担が重くなります。最高で所得税45%+住民税10%です。
法人は、中小法人の年800万円以下の所得部分に15%の軽減税率が適用されます。
目安としてよく挙げられるのは課税所得900万円前後で、これを超えると法人の税率上の優位性が明確になってきます。ただしこれはあくまで粗い目安で、実際には法人住民税・事業税・社会保険料・税理士報酬まで含めて比較する必要があります。
法人の3つの見えにくいメリット
1つめは経費計上の範囲の広さ。役員報酬・賞与・退職金、出張日当などを損金に算入でき、課税所得を圧縮できます。個人にはこの余地がありません。
2つめは欠損金の繰越期間。法人は最長10年、個人は青色申告でも3年です。不動産投資は初期に赤字が出やすく、長期では効いてきます。
3つめは減価償却の柔軟性。個人は強制償却ですが、法人は任意償却のため、その年の損益に合わせて調整できます。
法人のデメリットは「毎年出ていく固定費」
・設立時の登録免許税、定款認証などの費用
・税理士の顧問料・決算料(毎年)
・赤字であっても法人住民税の均等割は課税されます
・社会保険の加入義務
均等割について補足します。資本金1,000万円以下・従業者50人以下であれば最低年7万円ですが、経営・管理の在留資格に必要な資本金は3,000万円のため、より上の区分に該当し金額も上がります。実際の額は所在地と規模により異なりますので、税理士にご確認ください。
これらを合計すると年間数十万円の固定支出は避けられません。したがって、ご自宅を1軒購入するためだけに法人を設立するのは、多くの場合は割に合いません。
融資の違い(あまり語られない点)
個人の購入は住宅ローンで条件が比較的明確ですが、法人の購入は事業性融資となり、銀行は会社の業績・決算書・経営者の背景を見ます。審査の考え方が異なり、借入割合も金利も変わります。
さらに現実的な話として、設立して間もなく決算期の実績が乏しい法人が、日本の銀行から融資を受けるのは容易ではありません。会社を作れば法人名義で借りられると考えていて、ここで止まる方が少なくありません。可否と借入割合は個別の審査によります。
ご自宅を法人名義にするのは通常おすすめしません
経費にできると考えて自宅を法人名義にするケースがありますが、実務では社宅としての賃料認定が必要になり、処理を誤ると給与所得とみなされます。また個人の居住用にのみ認められる特例(売却時の特別控除など)も使えなくなります。
判断の方向性
個人名義がシンプル 自宅中心・長く住む予定・5年超保有・1〜2戸のみ
法人を検討する価値あり 賃貸収益중心・規模拡大の予定・所得階層が既に高い・会社が既に存在する
特に経営・管理の在留資格をお持ちの方は、会社も税理士も既にいらっしゃるため、法人保有の固定コストは実質的に支払い済みです。この点は既にお持ちの強みで、意外と意識されていません。
ここまでは制度の枠組みです。実際の選択は所得構成・会社の財務状況・将来の承継まで関わるため、必ず税理士にご自身の数字を見ていただいたうえでご判断ください。長くお付き合いのある税理士がおりますので、お話をうかがったうえでご状況に合いそうであれば、喜んでおつなぎいたします。
私がお力になれるのは不動産の側です。この物件を法人で購入した場合に融資が通りそうか、この価格帯で法人と個人の保有コストがどれだけ違うか、法人保有に向く物件はどれか——ご相談はLINEよりどうぞ。
・税理士法人阿部会計〈2026年最新・不動産購入は法人と個人のどちらが有利か〉
・北信不動産〈2026年版・不動産投資は個人と法人どちらがよい?〉
・relo不動産〈不動産購入は法人と個人どっちがお得?〉
・総務省〈地方税制度・法人住民税〉均等割の仕組み
確認日:2026年8月。税率・制度は年度改正により変動します。
周周・日本の不動産