物件をご覧いただいたお客様から最初にいただくご質問は、ほとんどの場合「この物件、利回り6%ですよね」というものです。私はまず「それは表面利回りでしょうか、実質利回りでしょうか」とお伺いしております。
日本の物件広告に記載されている利回りは、ほぼ例外なく表面利回りです。これはコストを一切控除していない数値で、物件を比較する際の目安としては有用ですが、手元に残る金額を把握するためのものではございません。本稿では具体的なモデルを用いて、その差を項目ごとにご説明いたします。本稿の最後までお読みいただくと、試算を誤らせる要因は計算式ではなく、そもそも入手できない資料のほうにあることがお分かりいただけます。
1. 表面利回りとは
計算式は「年間賃料収入 ÷ 物件価格」のみです。管理費も税金も取得時の費用も考慮されておりません。
したがって用途は二つ、物件の絞り込みと、同種物件どうしの比較です。手取り額の試算には向きません。
市場の水準を申し上げますと、健美家「収益物件 市場動向マンスリーレポート」2026年6月期では、区分マンションの全国平均表面利回りは6.61%でございます。ただしこれは地方物件を含む全国平均です。同レポート2026年5月期では、区分マンションの全国平均価格が2,715万円となり、利回りは2008年の調査開始以来最低を記録いたしました。価格上昇が利回りを押し下げているのが、現在の収益不動産市場の基調でございます。
東京都心の中古区分では、表面利回りは4.5〜6.0%程度が多く、全国平均を下回ります。ただし低いことが不利を意味するわけではございません。
2. 実質利回りとは
実質利回りでは、分子から年間の保有コストを控除し、分母に取得時の諸費用を加算いたします。
年間の控除項目は、管理費・修繕積立金、固定資産税・都市計画税、管理会社への委託料、火災保険料などです。物件によっては町会費やインターネット利用料も加わります。
分母に加える取得時諸費用は、仲介手数料、登録免許税、司法書士報酬、印紙税、不動産取得税、火災保険料などで、一般に物件価格の6〜10%が目安とされております。この費用は原則として現金でご準備いただく必要があり、融資に含められるとは限りません。したがって実質利回りとご用意いただく自己資金の双方に影響いたします。お申し込みの前に、この一覧を物件ごとに算出してお渡ししております。
登録免許税の軽減措置は期限にご注意ください。土地の所有権移転(評価額×1.5%)の軽減は2026年3月31日で期限を迎えており、建物の所有権移転(×0.3%)および抵当権設定(×0.1%)の軽減は2027年3月31日までとなっております。適用の可否は司法書士にご確認ください。
3. モデルケースで試算する
都心の中古区分、価格4,000万円、月額賃料19万円(年間228万円)と仮定いたします。
① 表面利回り
228万 ÷ 4,000万 = 5.70%
② 実質利回り
年間支出:管理費+修繕積立金 22.8万/固都税 8万/管理委託料 11.4万(賃料の5%)/火災保険 1.5万 = 43.7万
総投資額:4,000万 + 諸費用8%(320万)= 4,320万
(228 − 43.7)÷ 4,320 = 4.27%
③ 年1ヶ月の空室を見込む場合
(209 − 43.7)÷ 4,320 = 3.83%
同一の物件で5.70%、4.27%、3.83%。いずれも正確な数字であり、算入する範囲が異なるだけでございます。実務上は三つ目が実態に近いとお考えください。
上記の支出は一般的な水準を用いたもので、実際は物件と管理会社により異なります。なお所得税は別途考慮が必要です。
4. 見誤りやすい5つのポイント
第一に、取得コストを含めずに表面利回りだけで比較することです。同じ5.5%でも、諸費用が6%の物件と10%の物件では実質利回りに差が生じます。融資をご利用の場合は事務手数料や抵当権設定費用も加わります。
第二に、満室想定賃料を確定収入と捉えることです。現況空室の物件に記載された賃料はあくまで想定値でございます。オーナーチェンジ物件の場合は、実際の賃貸借契約の条件(賃料・敷金・契約期間)をご確認ください。なお賃料・敷金・契約期間・滞納の有無はレントロール(賃料明細表)と賃貸借契約書の写しに記載されており、物件広告には掲載されません。売主様への資料請求が必要でございます。
第三に、管理費・修繕積立金の増額を見込まないことです。中古マンションでは築年数の経過に伴い修繕積立金が段階的に引き上げられるのが一般的です。増額の時期と幅、修繕積立金の積立状況は管理会社が発行する「重要事項調査報告書」で確認いたします。こちらもインターネット上では入手できません。
第四に、税金の見積もりが粗いことです。固定資産税に加え、賃料収入は所得税の申告対象となります。また日本国内に住所を有しない非居住者の方の場合、賃借人は賃料支払時に原則として20.42%を源泉徴収し、残額をお支払いする義務がございます(国税庁 No.2880)。賃借人が個人でご自身またはご親族の居住用として使用される場合は不要ですが、法人が社宅として賃借する場合は源泉徴収が必要です。確定申告により精算は可能ですが、資金繰りの時期が変わります。詳細は税理士にご確認ください。
第五に、高利回りに飛びつくことです。日本において高利回りとなる物件には、立地・築年数・構造・賃借人の属性・出口の難しさなど、相応の理由があるのが通例です。利回りはリスクの対価であり、収益の保証ではございません。東京都心の4%台の物件が選ばれるのは、空室リスクの低さと賃料の安定性、出口の取りやすさによるものです。その物件の利回りが高い理由がどれに当たるかは、登記事項証明書、管理組合の議事録、管理会社への照会を経て把握するのが通例でございます。
この5点のうち、ご自身で試算できるのは第一のみでございます。残る4点の判断材料——レントロール、重要事項調査報告書、管理組合議事録、登記事項証明書——はいずれも公開の物件広告には含まれず、仲介を通じて売主様や管理会社から取り寄せる必要がございます。同じ物件でも見えている利回りが人により異なるのは、計算の差ではなく資料の差でございます。
5. 何%を目安とすべきか
一律の基準は申し上げられません。ご目的により適切な水準が異なるためでございます。
安定性と資産性を重視され、将来的なご自身の居住やご家族のご利用も想定される場合は、都心の低利回り物件のほうが合理的です。キャッシュフローを重視される場合は利回りの高いエリアや物件種別が候補となりますが、空室期間の長期化、管理負担、融資条件の厳格化を受け入れる必要がございます。
実務的な判断方法として、「年2ヶ月空室・管理費20%増」の条件で実質利回りを再計算する方法がございます。その数値をご許容いただけるのであれば、投資としての耐性は比較的高いと考えられます。
実務では、収益物件のご検討にあたり三点を行っております。売主様よりレントロールと賃貸借契約書を取り寄せること、管理会社より重要事項調査報告書を取得すること、そして諸費用を物件ごとの条件で算出することでございます。この三点が揃って初めて、前述の③に相当する数値が算出できます。
なお東京の賃料は上昇基調にございます。三井住友トラスト基礎研究所「マンション賃料インデックス」によれば、2026年第1四半期の東京23区の賃料は前年同期比6.7%上昇し、14四半期連続で過去最高値を更新しております。
物件のURLまたは販売図面をお送りいただければ、売主様へのレントロール・賃貸借契約書のご請求、管理会社への重要事項調査報告書の取得、諸費用の個別算出まで当方で行い、本稿の方法で管理費・修繕積立金(将来の増額を含む)・固都税・賃貸借条件・空室リスクを一項目ずつ整理してお渡しいたします。同一エリア・同種物件との比較もあわせてご報告いたします。
ご購入を見送るべきと判断した場合は、その旨も率直にお伝えいたします。日本語・中国語いずれも対応しており、費用はいただいておりません。
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(収益を保証するものではございません。実際の収入、融資の可否、税額は個別の状況および金融機関・税理士の判断によります。)
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