「2026年10月から、外国人が不動産を購入する際に国籍の届出が必要になる」という報道について、お客様からご質問をいただくことが増えております。
法務省の公告を確認いたしましたところ、報道から受ける印象とは、かなり異なる内容でございました。制度自体は2026年10月5日から施行されておりますが、その位置づけは「外国人の把握」ではなく、また中華圏のお客様に関わる実務上の留意点が、報道では触れられておりません。本稿では法務省の公告に沿って整理いたします。
1. この制度の位置づけ
まず、どの制度の一部であるかを押さえる必要がございます。
2026年4月1日から、不動産の所有者は氏名・住所の変更日から2年以内に変更登記をすることが義務付けられました。その負担軽減のため、登記官が住基ネット情報を検索し、職権で登記を行う「スマート変更登記」が開始しております。
登記官が検索するには、あらかじめ所有者の氏名・住所・生年月日等をお預かりしておく必要がございます。これが「検索用情報」で、2025年4月21日から、所有権の登記申請の際に併せて申し出ることとされております。
2026年10月5日の改正は、この検索用情報に「国籍等」を追加するというものでございます。
国籍等を加える理由について、法務省は「所有権の登記名義人に相続が生じた場合に適用される準拠法を確認する上で基礎となる情報」であり、相続登記を適正かつ円滑に実施するためと説明しております。
2. 「国籍等」には「台湾」が明記されております
法務省の公告では、「国籍等」とは登記名義人の国籍の属する国、または出入国管理及び難民認定法第2条第5号ロに規定する地域とされ、地域名は同法施行令第1条に規定する「台湾」及び「ヨルダン川西岸地区及びガザ地区」が該当すると明記されております。
したがって台湾のお客様については、法令上「台湾」として申し出る扱いが定められており、窓口ごとの判断によるものではございません。
3. よくある三つの誤解
誤解その一:外国籍の方だけが対象である。
日本国籍の方も対象です。証明書類は、日本国籍の方は本籍地の記載のある住民票の写しや戸籍の附票の写し、外国籍の方は国籍又は地域が記載された住民票の写し、旅券の写し及び日本語訳文、在留カードの写し、特別永住者証明書の写しのいずれかとなります。
誤解その二:国籍が登記簿で公開される。
検索用情報は登記所の検索用情報管理ファイルに記録されるもので、登記記録の項目ではございません。
ただし、ローマ字氏名は登記記録に記録されます。
外国籍の方が申し出る「氏名の表音をローマ字で表示したもの」は、登記記録に氏名と併記されることとなっております(通称名で登記される場合や、外国人住民票にローマ字氏名の記載がない場合は、氏名の振り仮名で差し支えございません)。
誤解その三:申し出ないと罰則がある。
国籍等の申出そのものについて、公告に罰則の定めはございません。義務と期限があるのは、前述の住所等変更登記(2年以内)でございます。
4. 海外にお住まいの所有者様へ
法務省の公告には、非居住者の方にとって重要な記載がございます。
つまり、日本国内にお住まいの方は登記官が職権で変更登記を行いますが、海外にお住まいの方にはその適用がなく、2年という期限のみが同様に及ぶということでございます。ご住所やお名前が変わられた際は、お忘れなくご対応ください。
5. ご購入時にご準備いただくもの
検索用情報として申し出る事項は、氏名、氏名の振り仮名(外国籍の方はローマ字氏名)、住所、生年月日、メールアドレス、国籍等の6項目でございます。
メールアドレスは、登記官が職権で住所等変更登記を行うことの可否を確認する際の宛先となりますので、登記名義人ご本人のみが利用されているものをご指定ください。お持ちでない場合は、その旨を申し出れば書面での送付となります。
なお、登記申請では従来から住民票の写し等の住所を証する情報を提供いたしますので、それにより国籍等が確認できる場合には、追加の添付書類は生じません。
必要書類の一覧はご契約前にお渡しし、訳文の手配も当方と提携の司法書士で対応いたします。
6. 混同されやすい三つの制度
② 外為法に基づく事後報告:非居住者が日本の不動産を取得した場合の日本銀行への報告。別制度でございます。
③ 重要土地等調査法の事前届出:特別注視区域に指定された土地の取引のみが対象でございます。
⚠️ この点は現在変動しております。2026年10月23日、政府は同法の改正案を閣議決定し、重要施設周辺のおおむね1,000メートル及び無人国境離島における所有権移転を、現行の事前届出から「事前許可」に改める方針が示されました。国籍を問わず適用されます。現時点では国会審議中であり、現行法は届出制でございます。
7. すでに所有されている方(単独申出)
既に所有権の登記名義人である方は、登記申請とは別に検索用情報を申し出ることができます。義務ではございません。
手続きは、押印・電子署名が不要で、ウェブブラウザ上の「かんたん登記・供託申請」をご利用いただけます。添付書面は多くの場合、身分証明書の写しのみで、登録免許税等の費用はかかりません。管轄の異なる複数の不動産についても、いずれかの不動産を管轄する登記所にまとめて申し出ることが可能でございます。
ただし海外居住者の方は、申し出ても職権による住所等変更登記の対象とはなりませんので、実益は将来の相続登記における準拠法の確認が中心となります。
8. 周周より
公告を通読した率直な感想といたしましては、見出しから受ける印象ほどの話ではございません。外国人のご購入を制限するものでも、税負担が増えるものでもなく、添付書類すら増えない場合がございます。
むしろご留意いただきたいのは、住所等変更登記の2年という期限が、海外にお住まいの所有者様にはご自身の対応として残るという点でございます。
中華圏のお客様のご購入、またはすでにお持ちの物件についてのご確認も承っております。ご契約前に必要書類をお渡しし、決済当日に必要な写しや訳文、メールアドレスの確認まで事前にご用意いたします。
登記手続き及び必要書類は司法書士が、契約内容は宅地建物取引士がご確認いたします。住宅ローンのご利用可否・可能な借入割合は個別の事情と銀行の審査により、税額は税理士にご確認ください。制度の詳細は法務局の最新のご案内をご確認ください。
出典
・法務省「検索用情報の申出について(職権による住所等変更登記関係)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00678.html
・不動産登記規則の一部を改正する省令(令和8年法務省令第23号、令和8年3月31日公布)省令PDF。本稿の該当条文は改正後の不動産登記規則第158条の39(同時申出)及び第158条の40(単独申出)。
・令和8年9月4日付け法務省民二第872号通達 通達PDF。
・検索用情報の申出に関するQ&A:法務省Q&Aページ。
・外為法に基づく非居住者の報告、重要土地等調査法の特別注視区域の事前届出は、それぞれ別個の制度でございます。
・重要土地等調査法の改正案は2026年10月23日に閣議決定されました(事前許可制、国籍を問わず適用、無許可の所有権移転は無効)。国会審議中でございます。時事通信社・NHK・日本経済新聞等の同日報道より整理。
*施行間もない制度のため運用が変わる可能性がございます。個別の案件は管轄の法務局及び担当の司法書士にご確認ください。
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