重要事項説明書をご覧になって、「管理費と修繕積立金で、毎月3万円近く」という数字に驚かれるお客様は少なくありません。高いのではないか、この建物に何か問題があるのではないか、と不安になられるのも無理はございません。ですが、この金額は現在の東京の中古マンションの「平均的な水準」でございます。この記事では、この2つの費用が何のためのものか、なぜ高い物件と低い物件があるのか、そして金額が高くても慌てて見送らなくてよい理由を整理いたします。
一、毎月お支払いになるのは「2つ」の費用です
日本のマンションでは、住宅ローンのほかに、毎月、管理費と修繕積立金をお支払いいただきます。簡単に申しますと、管理費は「今を維持する」ための費用で、管理員、清掃、エレベーターの保守点検、共用部分の光熱費などに充てられます。修繕積立金は「将来に備える」ための費用で、数年後の大規模修繕のために積み立てるものです。管理費の詳細はこちらの記事でご説明しておりますので、今回は修繕積立金を中心にお話しいたします。
まず数字をご覧ください。東日本レインズ(東日本不動産流通機構)の集計によると、2025年度に東京都内で成約した中古マンションの平均は、管理費が月額約14,878円、修繕積立金が約13,788円で、合計28,667円でございます。東京23区は合計約28,957円、首都圏全体は約27,805円です。
もう少し長い目で見てみます。LIFULLが築11〜20年の東京の中古マンション(60㎡換算)で集計したところ、この2つの合計は、2010年が約22,400円、2025年が約28,700円で、15年間で6,000円以上上がっております。人件費と工事費が上がり、修繕積立金も年々引き上げられてきたためです。つまり「3万円近く」という金額は、この建物だけが高いのではなく、市場全体の相場でございます。
いくつかの範囲を並べると、よりわかりやすくなります。
| 範囲(2025年度、中古マンション成約平均) | 管理費+修繕積立金(1戸あたり月額) | 1㎡あたり |
|---|---|---|
| 東京都 | 28,667円(管理費14,878円+修繕積立金13,788円) | 約476円 |
| 東京23区 | 28,957円 | 約494円 |
| 東京都多摩 | 27,294円 | — |
| 首都圏全体 | 27,805円 | — |
| 全国平均(国土交通省) | 平成30年度 | 令和5年度 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 修繕積立金(1戸あたり月額) | 11,243円 | 13,054円 | 約+16% |
| 管理費(1戸あたり月額) | 10,862円 | 11,503円 | 約+6% |
二、修繕積立金は何のために積み立てるのか
マンションは、一棟の建物を皆様で共有しております。外壁タイルの剥がれ、屋上やバルコニーの防水の劣化、鉄部のサビ、エレベーターや給排水管の寿命など、いずれ必ず手を入れる時期が来ます。その費用を区分所有者全員で負担するため、毎月一定額を共同の口座に積み立てるのが修繕積立金で、実際に工事を行うときにこの資金を使います。これが「大規模修繕」でございます。
どのくらいの周期で行うのでしょうか。国土交通省の調査(令和3年度、約800件の工事事例)では、大規模修繕の周期は12〜15年のものが約7割で、1戸あたりの工事金額は100〜125万円の区分が最も多くなっております。つまり、およそ12〜15年ごとに建物全体の改修を行い、1戸あたりに換算すると百万円規模の支出になるということでございます。

大規模修繕の間は、建物全体が足場と養生シートで覆われ、数週間から数か月続くのが一般的です(写真:Namazu-tron/CC BY-SA 3.0/ウィキメディア・コモンズ)
| 修繕項目 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 外壁 | ひび割れの補修、タイルの補修、再塗装 | 雨水の浸入を防ぎ、外観も維持する |
| 屋上・バルコニー・廊下の防水 | 防水層のやり替え | 漏水はマンションで最も多く、厄介なトラブル |
| 鉄部(階段、手すり、扉) | ケレン(錆落とし)と再塗装 | 錆を防ぎ、安全性を保つ |
| 給排水管・電気設備 | 点検・補修、必要に応じて更新 | 配管の劣化による漏水や詰まりは全戸に影響する |
| エレベーター・機械式駐車場などの設備 | 保守、更新 | 寿命が来ると一式交換が必要で、金額が大きい |
日頃から積み立てておかなければ、工事の際に各区分所有者から「一時金」を一度に徴収するか、管理組合で金融機関から借り入れるかしかなく、どちらも住民の負担は大きくなります。そのため日本では、最初から毎月少しずつ積み立てておく仕組みになっております。
三、なぜ高い物件と低い物件があるのか
同じ東京のマンションでも、修繕積立金が月6,000〜7,000円のものから2〜3万円のものまでございます。主な理由は次のとおりです。
① 新築か中古か。新築マンションでは、月々の負担を低く見せて売りやすくするため、当初の修繕積立金を低めに設定し、数年ごとに引き上げる方式(段階増額積立方式)が多く採用されております。築5年の物件の積立金が低くても、節約できているわけではなく、まだ引き上げられていないだけの場合がございます。国土交通省は2024年6月に指針を改定し、この方式では当初額を均等積立方式の平均額の0.6倍以上、最終額を1.1倍以内とする考え方を示しております。
② 規模と戸数。戸数の少ない小規模な建物では、同じ屋上防水や外壁の工事を少ない人数で負担するため、1戸あたりの負担が重くなります。大規模な建物は負担を分散できますが、維持すべき設備も多くなります。
③ 設備の多さ。エレベーター、機械式駐車場、エントランス、ジム、共用施設など、設備が多いほど維持・更新に費用がかかり、管理費も修繕積立金も上がります。都心の大規模な新築では特に顕著で、さくら事務所の集計では、2025年の都心9区の大規模新築分譲の管理費と修繕積立金の合計は1㎡あたり約741円、70㎡で月額約5.2万円でございます。
④ これまでの積立と修繕の状況。これまで十分に積み立て、計画どおり修繕してきた建物は引き上げ幅が小さく、反対に、これまで積立額が少なかった建物は、後から一度に引き上げられ、一時金が加わる場合もございます。そのため「現在の金額」は、長期修繕計画と並べて見て初めて意味を持ちます。
⑤ 工事費の相場。近年は資材費と人件費が上昇しており、長期修繕計画の見直しに伴って修繕積立金は引き上げ傾向にあります。国土交通省の令和5年度調査では、全国平均の修繕積立金は月額13,054円(平成30年度は11,243円)、管理費は11,503円(平成30年度は10,862円)で、いずれも前回より上がっております。
⑥ 管理方式と人員配置。これも管理費に大きく影響しますので、次の項でご説明いたします。
築年数別に見ると、おおむね次のとおりです(東京、60㎡換算、LIFULL調査)。
| 築年数 | よく見られる状況 | 購入前に確認すること |
|---|---|---|
| 築0〜5年 | 管理費が最も高く(東京で約19,182円)、修繕積立金は低めのことが多い | 今後の引き上げ計画(何年ごとに、最終的にいくらになるか) |
| 築6〜10年 | 修繕積立金が段階的に引き上げられるが、大規模修繕に必要な額にはまだ届かない場合がある | 積立計画どおりに進んでいるか、引き上げが先送りされていないか |
| 築11〜20年 | 修繕積立金が12,000円を超え、東京では築15年前後で14,000円を超える。初回の大規模修繕はこの時期に多い | 初回の大規模修繕を実施したか、費用はいくらか、基金の残高はいくらか |
| 築20年以上 | 2回目の大規模修繕と設備更新が始まり、金額が大きくなる | 長期修繕計画、残高、一時金徴収の見込み |
四、管理方式によっても管理費は変わります
管理方式は大きく3種類に分かれます。国土交通省の調査では、管理会社に全部委託しているものが約7割強、自主管理は約5%、一部委託はその中間でございます。
| 方式 | 誰が行うか | 管理費の傾向 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 全部委託 | 会計、建物の維持管理、修繕の計画支援などをすべて管理会社に委託 | 高め | 住民の負担が軽く、専門家の支援があり、対応も早い | 管理会社の質による。近年は委託費も人件費とともに上昇 |
| 一部委託 | 一部(会計や清掃など)のみ委託し、残りは管理組合が行うか別途発注 | 中間 | 費用を自分たちで調整でき、柔軟 | 管理組合に動ける人が必要で、質が人に左右される |
| 自主管理 | 管理会社に委託せず、区分所有者自身が運営 | 最も安い | 費用が低い | 負担が区分所有者に集中し、専門的な判断と人手が必要。近年は減少 |
また、管理員の配置も管理費に影響します。「住み込み」(管理員が建物内に居住)、「通勤(日勤)」(毎日決まった時間に勤務)、「巡回」(管理員が常駐せず、決まった日時に見回る)の3つがあり、一般的には住み込み、通勤、巡回の順に費用が下がります。管理員が毎日いる建物は整っていることが多く、巡回型は費用を抑えられる反面、日常の異変は住民自身が気づいて連絡する必要がございます。小規模なワンルーム向けの建物には巡回型がよくありますが、管理が悪いという意味ではなく、大切なのは行うべきことが行われているかどうかでございます。
五、良い管理とは、どういうことか
管理が行き届いている建物には、次のような特徴がよく見られます。長期修繕計画があり、実際にそれに沿って実施し、定期的に見直している。修繕積立金の残高が計画と整合しており、修繕を先送りし続けていない。管理組合の総会が毎年開かれ、議事録が確認できる。管理費の滞納が少ない。共用部分が清潔で、掲示板が整い、ごみ置場のルールが明確である。なお、国土交通省の調査では、築年数が古い建物ほど滞納の割合が高い傾向も示されております。
こうした建物には実際のメリットがございます。建物や設備の状態が良く住み心地が良い、突然の一時金を徴収される可能性が低い、売却の際に買主や金融機関が管理状態を確認でき、適正な価格で取引しやすい(実際の相場は個別の物件によります)、といった点です。一方、同じ調査では、約3分の1強(36.6%)の管理組合で、実際の積立額が長期修繕計画で必要とされる額を下回っておりました。つまり、金額が低いことは必ずしも「安い」ことではなく、まだ埋められていない不足が隠れている場合もございます。
六、この費用は、家計と投資利回りにどう影響するか
まず自宅用として。毎月28,667円は、1年で約34.4万円です。物件価格と並べてみると、保有コストが価格に占める割合は小さいものの、毎月かかり続ける費用であることがわかります。
| 物件価格(仮定) | 管理費+修繕積立金の年額 | 価格に占める割合 |
|---|---|---|
| 3,000万円 | 約34.4万円 | 約1.15% |
| 5,000万円 | 約34.4万円 | 約0.69% |
| 8,000万円 | 約34.4万円 | 約0.43% |
次に賃貸投資として。「表面利回り4.8%」(価格3,000万円、月額賃料12万円、いずれも仮定)の物件でも、管理費と修繕積立金の金額によって、差し引き後の利回りは大きく変わります。
| 管理費+修繕積立金(月額) | 年間合計 | 差引後の年収入 | 差引後の利回り(概算) |
|---|---|---|---|
| 15,000円 | 18万円 | 126万円 | 約4.20% |
| 28,667円(東京平均) | 約34.4万円 | 約109.6万円 | 約3.65% |
| 40,000円 | 48万円 | 96万円 | 約3.20% |
七、金額が高くても慌てず、低くても喜びすぎず
金額が高い場合は、築年数が経っていても積立が健全である、設備が多い、管理員が常駐している、引き上げがすでに完了している、などの理由が考えられます。金額が低い場合は、新築でまだ引き上げ前である、管理員が巡回のみである、自主管理である、あるいは積立が不足している、といった場合がございます。ですので私は、まず「なぜこの金額なのか」を確認してから、受け入れられるかどうかを判断いたします。内見の際は、仲介会社を通じて次の資料をご確認ください(重要事項説明書に一部が添付されていることが多くございます)。
1. 長期修繕計画(いつ、何を、いくらで修繕する予定か) 2. 過去の修繕履歴(大規模修繕をいつ実施したか) 3. 修繕積立金の現在の残高と滞納状況 4. 引き上げの予定や、最近の一時金徴収の有無 5. 管理方式、管理員の配置、管理会社 6. 直近1〜2年の総会議事録。
投資用として購入される方は、管理費と修繕積立金が保有コストとして実質利回りを下げますので、計算方法は表面利回りと実質利回りの記事をご覧ください。築年数の古い物件を検討される場合は、中古マンションのチェックポイントもご参考になります。
物件資料をご覧になって、修繕積立金や管理規約、長期修繕計画がわかりにくい場合は、ぜひLINEでご相談ください。資料を一つずつ確認し、管理会社へ追加で確認すべき点もお伝えいたします(本記事は一般的な情報の整理であり、実際の金額や制度は各マンションの管理規約、長期修繕計画および国土交通省の最新の公表をご確認ください。税務は税理士、登記・契約は司法書士・宅地建物取引士にご確認ください)。
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